“青首(鴨)”には葱より芹
渡り鳥の代表格、鴨は11月になると大群を成してシベリアから日本へ渡ってくる。
その種類は何と30余種もあるそうだ。
中で、食用として珍重されるのは“真鴨(まがも)”。
形も大きくて、赤味を帯びた肉の味は抜群に旨い。
頸部が美しい青緑色をしている(オス)ところから、「青首」と俗称されている。
通常、料理店などで使用するのは“合鴨”と呼ばれる、真鴨のオスと家鴨(あひる)のメスを掛け合わせた雑種だ。
野生の鴨はなかなか入手困難だからだが、一部の専門店では時季を限って予約で提供していることもある。
かつて編集者だった頃は、季節に2~3度は野生鴨を食べる機会があった。
滋賀の『大黒屋』、岐阜の『すぎ山』などの老舗では、緊張したのか、味の記憶は残念ながら薄いが、千葉・旭の『才兵衛』での記憶はいまだに鮮やかだ。
当時の私は、結腸にポリープがあると言われ、医者から「刺激物、脂っこい物、アルコールは厳禁。あまり動き回ってもダメ」と厳命されていたが、野生鴨の誘惑には勝てず、誘われるままに、出かけたのだった。
合鴨(間鴨)は、いろいろな料理で体験しているが、野生鴨を食べるチャンスなんて滅多にあることでは無い。
千葉の入船町(南行徳)に『かも苑』という店がある。
すぐ傍は皇室の鴨場・・・国内外のVIPに供される独特の味付けの“鴨すき焼き”が有名だ。
合鴨も、両国の老舗『鳥安』は、独特の焼き鍋で、なかなかの味わいではあるが、野生鴨の風味とは少し違う。
野生鴨の、赤味の強い肉は地鶏に近い歯応えではあるが、全てのジビエに共通の、“血”の濃さをかすかに感じる原始的・本能的風味。
「これはオスです」と、店主が言ったが、となれば、まさに“青首”。
小鴨丸蒸し、鴨飯と出してもらったが、残念ながら当てにしていた“ツクネ”は無かった。
これは、内臓や頭を雀と共に叩いてツクネにして煮たものだが、雀が獲れないので作れないと言われた。
そんな野生鴨も、予約してもなかなか食べる機会に恵まれない。
それでも運良く、デパートなどの食肉売り場で、野生鴨の《抱き身(胸肉)》に出会うことがあり、そんな時は値段に目を瞑って買ってしまう。
簡単で間違いなく美味しいのは、鉄板で焼いて、大根おろしと生醤油で食べる・・・絶品だ。
勿論、鴨は、鍋にして良し、麺類に使って良し、加賀料理の冶部煮もバッチリ。
さて、鍋なら合鴨で充分美味しく食べられるが、『鴨が葱背負ってくる』なんて諺にあるから、当然に葱は鴨と相性がいい訳だが、実は、鴨の幾分しつこいくらいの味には芹の方が合うのだ。
鴨の脂が味をくどくするのを、芹が和らげてくれるようで、葱より美味しい・・・と、私は自信を持って奨める。
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