短時季の「銀宝」は天婦羅!
初春のいっ時、桜の花が咲く前のほんの短時季の魚だ。
平たく細長く、一見ドジョウに似た魚で、別名を“カミソリ(剃刀)”とか“ナキリ(菜切り)”と言うのも、この姿形から。
黄褐色の地肌に褐色の斑紋があり、成魚の体長は18センチほど、大きな魚ではない。
背鰭は81本の棘状で、迂闊に握ろうものなら手指が切れる。
北日本の内湾に多く棲むニシキギンポ科の磯魚。
蛇行して泳ぎ、夜行性だ。
時季が本当に短いので、それを外すと「エッ、ウッソ~ォ。美味しくない」と言いたくなるほど味が無くなる。
しかも、たとえ時季でも、生きているうちに調理しないと、これまた不味~い。
なんとも厄介な魚だが、時季に生きたままで調理した「銀宝」は、通を唸らせるいい味だ。
主産地は、東京湾沿岸各地で、まさに“江戸前”。
こんなドジョウのような、アナゴのような魚を、時季に生きたまま調理・・・となれば、それこそ“江戸前天婦羅”をおいて考えられない。
確かに、いろいろ調理してみても、天婦羅に勝る調理法は無いようだ。
「銀宝」自体が、なかなか流通に乗らない上に、それを生きたまま天婦羅にするとなれば、これは一流の専門店に食べに行くしかない。
銀座の老舗天婦羅店【銀座天一】には、通人が「春が来たと実感出来る」という名物時季天婦羅「銀宝」がある(入荷次第だが、当たればラッキー)。
味としては、ややモッチリ感がある白身で、キスのような歯触りか。
近年は外洋のものが入荷され、巷の天丼屋などで使われているが、鮮度保持はいいとしても、生きているものを捌いた天婦羅の味とは別格のものだ。
これが“銀宝”として、市場で評価されているのは少し遺憾に思う。
この魚は生きたまま食べて“ナンボ”のもの。活魚でなければ本物の味ではない。
キトキトの「銀宝」、待ちかねるファンが多い、初春の魚だ。
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