神経質な“スルメイカ”
ただ、麦の穂が出る頃に出回る、少し小柄なスルメイカは、軟らかく美味しい。
この時期のスルメイカは「麦イカ」とか「新イカ」と呼ばれる。
スルメイカの漁は、灯火に集まる習性を利用して、漁船には沢山の電灯を付ける。
沖合いに集漁灯を明々とつけた漁船が並んでいるのは、初夏の風物詩。
100種以上もあるイカの種類だが、それぞれに旬がある。
春一番が“蛍烏賊”、次に出るのが“ヤリイカ”、初夏になると“スルメイカ”と“ジンドウイカ(=ヒイカ)”・・・そして秋口は“剣先烏賊”、晩秋は“甲烏賊”・・・etc。
一般的にイカの仲間は神経質で落ち着きが無い(誰かに似ている?)ので、水槽で飼うには適さない。
中でもスルメイカは、特に神経質で、小さな刺激にも敏感に反応し、墨を吐き、反射的に体色まで変える。
墨を吐き、体色を変えると、イカは急速に弱るのだ。
さて、イカの鮮度がいいのは、皮色が赤?、白?。どっち・・・!
学生時代に駅からアパートまでは、駅前商店街を抜けて直ぐだった。この商店街は、どの店も顔馴染みで、売れ残りや半端物、アラなどを取っておいて声を掛けてくれた。
ある日、「イカの鮮度がいいよ、刺身にしてね」と言うから覗いたら、イカは真っ白・・・透明感のある白なら未だ鮮度がいい方だが・・・「エッ、こんな白いイカを刺身?。赤い皮のは無いの?」と、応答してしまって魚屋を怒らせた。「Aちゃんサ、赤いイカなんて腐る手前、食えたもんじゃないんだよ」。
私の実家は網元で、イカ釣り漁の船も所属していた。小学校に上がる前から、毎日、何箱ものイカを処理していたのだ。鮮度には詳しい。
赤がいいか、白がいいか・・・これは、どっちも正解で、またどっちも不正解なのだ。
鮮度のいいものは黒味褐色で、漁師は「オォ、真っ赤で活きがいいぞ」と言った。私が思う“赤”はこの赤。
ただ、イカは触っただけでも白くなる。ちょっとの刺激でも体色を変えるのだ。
漁れたてを並べ重ねると褐色は消えて、透明感のある白に黒い胡麻粒状の斑点が出る。これはまだまだ刺身鮮度。
この白さが、やがて不透明になり、ピンクに近い赤になったら、もう生食どころか、加熱しても危ない。魚屋のイカはこの白さで、彼が思った“赤”は最終段階の赤。
色の表現は微妙で、赤にしろ白にしろ、濃度・彩度・明度・・・みな違う。誤解や勘違いも生じるわけだ。
昨日買ったスルメイカは、褐色が残った抜群の鮮度だったが、家に帰るまでに最初の段階の透明感の白になっていた(上の写真)。
一般に、イカ類は神経質だが、中でもスルメイカは特に神経質で落ち着きが無い。最近は、イカの生簀搬送も多くなり、水槽に入れて客の目の前で生きたイカを料理する店も出来たが、長時間の飼育は出来ない。
新鮮なスルメイカは、刺身。イカ素麺など生食に。
鮮度のいいスルメイカは刺身が一番。ワタが太っているので塩辛にも適している。
身の部分は刺身にして、耳や足を塩辛にすると、刺身も食べ易く、塩辛も歯応えあるものが出来る。
ワタを使った煮物や炒め物も美味しい。
煮物、焼き物、揚げ物・・・レパートリーは多彩だ。
- イカ(1杯)は、ワタを破らないように、胴と足に分け、胴は1センチ幅くらいの輪切りに、足はワタから離して2本くらいずつに切り分ける。
- 酒、味醂、醤油、水(各40cc)に、生姜(半片)の薄切りを入れて煮立て、1を入れ火が通ったらすぐ取り出す。
- その煮汁に大根(10センチ)を1,5センチ厚さの半月切りにして加え、落し蓋をして軟らかくなるまで煮込む。
- 大根も一端取り出し、煮汁をトロミが付くまで煮詰めて、2と3を戻し煮汁を絡める。
- 器に盛ったら、生姜(半片)を針生姜に切って添える。
※イカは火を通し過ぎると固くなるので、火が通った段階で必ず取り出すこと。
※ワタは凍らせて筒切りすれば絶妙な酒肴になるが、飲まない人は醤油と味醂を少し加えて、豆腐や葱を煮込むといい味の一品になる。
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