“新牛蒡”と牛肉煮
ひね牛蒡より柔らかく香りも高い初夏の味だ。
収穫後数日で店頭に出るので、掘りたての瑞々しさが堪らない。
皮と身の間が美味しさの元、こそげ落としてしまったら何にもならない。
泥を洗う程度で充分なのだ。
牛蒡はキク科で、ヨーロッパからアジアにかけてが原産地だ。
中国では風邪予防の薬用に使われるが、主として食用にするのは日本だけらしい。
正月のおせちに“開き牛蒡(タタキ牛蒡)”があるが、牛蒡の根が地中に深く入り込む・・・家に基がしっかりする、堅固になる・・・という願いからだ。
“権棒”とか“ゴンボ”などと呼ぶ地方もある。
滝野川牛蒡の系統が栽培の主流で、千葉県・茨城県・埼玉県が主産地。
青森県の三戸・五戸地方は、長芋の生産が日本一だが、つまりは長い野菜には向いているわけだ。
まだ知られてはいないが、この地の牛蒡は注目される。
何しろ長い、太い、その割りに柔らかい・・・人気が出る要素が充分だ。
牛蒡には、期待できる栄養分は殆ど無いが、カルシウム・リンのほか、食物繊維が多く、とくに消化・吸収し難い炭水化物のイヌリンが含まれるので、整腸作用や便通に効果がある。
皮に風味があるので、こそげたり剥いたりはせず、タワシで泥を落とす程度がいい。
アクが強いので酢を少し加えた水に放つと言われるが、新牛蒡は香りが命なので、切って直ぐに使った方が美味しい。
天婦羅、キンピラ、吸い物、炊き込み飯、五目寿司、甘辛煮つけ・・・と使い道は多い。
とくに、笹掻きした牛蒡は、鰻や穴子、泥鰌などの他、牛肉などと卵を回し入れた柳川風にすると抜群だ。
最近の若い人たちには、牛蒡のサラダが好まれている。胡麻やマヨネーズなどとの相性がいいようだ。
丈夫な野菜で、細長いところから『細く長くつつましく生きる』の願いを込め、祝い膳などに使われる。
貝原益軒が『大和本草』の中で、牛蒡について「本邦には菜中の上品とす(わが国の野菜の中では体のためにも大事なものだ)」と書いている。
『人の牛蒡で法事する』という諺がある。
昔は、葬祭や法事には、隣近所が助け合い、主婦たちが役割分担で、煮染めやけんちん汁、キンピラなどの料理を作った。
その材料を、用意しないで、誰かが持って来るのをあてにした家を皮肉った諺だろう。
そんな諺に出るくらい、精進料理には牛蒡が欠かせない。
煮染めにも、けんちん汁にも、キンピラやタタキ牛蒡・・・牛蒡が無くては始まらないようだ。
昔ながらの「キンピラ」は定着した惣菜だが、最近は茹でてマヨネーズで和えたサラダが人気上昇らしい。
- 鍋を熱し、サラダ油を回し入れて馴染ませ、余分な油は油容器に移す。
- 一口大に切った薄切り牛肉(100g)と、生姜(1/2片)の千切りを1の鍋で炒め、砂糖(大2/3)、酒(大1)、醤油(大1)を入れてサッと煮る。
- 肉をいったん鍋から取り出し、煮汁に醤油(大1/2)を足す。
- 牛蒡(1/2本)は擦り洗いして乱切りにし、3で落し蓋をして煮る。
- 弱火で汁を煮詰め、2を加えて一混ぜ、器に盛ったら、木の芽(または三つ葉などの青味)を乗せる。
《ば~ばの食べ物事典》を作りました。ご参考になれば幸甚。
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