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2007年7月22日 (日)

私の詩たち

私の詩集は、三集あり、二冊出版されてます。

それらの中で、出版準備中は、発表できませんが、第一集・第二集から選んで、テーマ別に纏めて見ました。

その(1)・・・家族(家族、夫、娘、息子、母、ほか)

その(2)・・・心(思い、願い、愛、ほか)

その(3)・・・その他(病気、介護、仕事、ほか)

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《その(1)・・・家族(家族、夫、娘、息子、母、ほか)

家族

【赤い糸】

生まれる前から結ばれているという  縁(えにし)の赤い糸

.

もつれた糸を手繰り寄せ  切れた糸を繋ぎ直す

.

太くても脆い糸  細くても強い糸

糸は心が紡ぐのか  赤の色は血潮が染めるのか

.

長すぎる糸は  いつまでも  その結ばれた先が見えません

.

愛という字の裏側が見えません

.

母の母の

そのまた母の母の ずっと先が見えません

.

孫の孫の

そのまた孫の孫の ずっと先も見えません

.

.

.

【回復期】

「そろそろお粥になったかい?」

ベットの傍らに寄るなり  夫が聞く

米粒が数えられるほどの薄いお粥  3日前から始まった流動食

味の付いていないスープでさえ 美味しいと思った一匙の重み

.

「ねぇ お通じ ちゃんとあった?」

耳元に唇を付けるように  娘が問う

人差し指と中指とでVサイン

手術前の浣腸から一週間  順調に回復していく喜び

.

「ヘイ! おふくろさん 眠れたかい?」

病室に入ってくるなり  息子が聞く

やっと体が動かせるようになった朝

術後10日での熟睡  手足を伸ばせるようになった心地よさ

.

“持病”になった病との付き合いは これから何年続くのだろう

それでも この家族の優しさと 回復の喜びがあるから

私は頑張っていける

.

.

.

【鯨の群れる海に】

目の前の沖合いに  鯨の親子が戯れる浜

マウイ島カアナパリビーチ  

ザトウクジラが  数メートルの巨体を海上に躍らせ

見事な尾鰭を翻して海面に身をくねらす

.

空も水も風もみな蒼い  マウイ・ノ・オイ(マウイは最高)

死んだらこの海に散骨してくれ、と

聞いたことも無いほど明るい声で  夫が話しかける

.

飛行機嫌いで  一度も海外旅行に付き合ったことが無いのに

欝が続く私の気を晴らそうと  自分から誘ってくれたハワイへの旅

.

あちこちと回って  すっかり気に入ったのがこの浜

老後はここに永住しましょうかと  私も夢のような返事をする

散骨で撒いた骨が  

鯨の子育てを見守り  子鯨のオモチャになるだろうか

夫と私は顔を見合わせ  

秘かな笑みを交わす

.

ちょっと足を伸ばして  ラハイナでショッピング

バニヤンの大樹が枝を広げ  枝から蔓のように根が降りて

それが幹に変わって  また枝と根を増やしている

一本の樹が周りに子を育て  さらに無数の孫を増やして

みんな連なっている  そんな木蔭を散歩する日々

.

時には車でハレアカラ火山国立公園に行こう

十数年でやっと花を付け  咲くと直ぐに枯れて命を終えるという

幻の銀剣草に逢いに行くのもいい

.

親と子と孫と  しっかり繋がって大樹になるか

溶岩に根を張り  強風に晒され

孤独に小さな花を咲かして枯れるか

鯨が群れる海に包まれて  マウイ島の命はそれぞれに輝く

.

アロ~ハ

現地の青年たちが背後で声をかけ 

自転車に乗ったまま  手を振って通り過ぎる

アロ~ハ

近い将来に  きっとあなたたちの住むこの島、この浜に

再び訪れることが出来ますように・・・夫も私も同じ思いで

少し日焼けした皺の多い手を  千切れるほど振り続ける

いつの日か

この鯨の集まるラハイナ沖の海水に溶け込みたい

振り続ける私達の手に  共通の願いが握られた

.

.

.

【伊豆の旅】

岩を砕く波の飛沫が  風に巻き上げられて

覗きこむ前髪を濡らす  伊豆城が崎の断崖

.

どれだけの足が通ったのか

踏み固められた 急勾配の山道は

中年夫婦の辿ってきた道にも似て

.

季節を外した晩夏の夕暮れ

行き交う人もまばらになって・・・

労わりあえる時がきたのでしょうか

.

私の髪を拭く  日焼けした夫の腕にも

薄やかに波のしぶきのヴェール

.

黄昏色に  キラリ キラリ

.

.

.

【寂しい家】

二月始めの凍てつく夕方

夫はひとり  新任地の札幌に赴いた

.

寒いから イヤ   遠いから イヤ

そんな我儘を言って すぐに着いて行かなかった私

.

夫を見送った駅前の花屋に

春を告げる 色とりどりのスウィトピー

.

店にあるだけ 両手に抱えきれないほど買って

玄関に  食卓に  寝室に・・・

家中いっぱいに飾るスウィトピー

.

花に埋もれると  寂しさが家中に・・・重く

.

.

.

【チビママ】

中学校に入った時から  家事の大半を代わってくれた娘

「お仕事中は 家のこと忘れてていいよ」と  おとなでした

.

「徹夜は身体を壊すわよ」なんて

まるで 母親が娘を気遣うように

そっと煎れてくれる珈琲の湯気は 喉より眼に熱くて・・・

.

受験勉強の参考書を片手に  支度しておいてくれる夕飯は

どんな名店の どんな立派な食事より

心満たして  美味しかった

.

ふざけて  チビママって呼んだりしたけれど

精一杯の感謝でした

.

.

.

【娘が嫁ぐ日に】

花嫁の父は  娘を手放す寂しさに悲しみの涙を流し

花嫁の母は  娘の幸せに共感して嬉しい涙を流す

.

ずっとそう思い、そう信じていた

それなのに  あなたが嫁ぐ日が近づくほどに

私の胸に広がっていく寂寥感と虚無感

.

「Mさんを私にいただきたく お願いに上がりました」

誠実な人柄そのままの  しっかりした口調の挨拶

.

あなたには想いを寄せるひと(男性)が居ると気付いてから

この言葉を聞く日を心待ちにしていた

それはあなたが生まれてからの二十数年

楽しみにしてきた私の夢が叶う日

.

色白で小柄なあなたは  さぞ可憐な花嫁姿を見せてくれるはず

あれやこれやと思い描いてきたその日だもの

あなたの嫁ぐ幸せを無条件に喜べると  疑うことなど無かった

.

「やはり白無垢で綿帽子がいいと思うの」

衣装選びをするあなたの笑顔は  幼いあの日のまま

私の膝に甘えたあの時の眼  輝いている

.

日取りも決まった  式場も決まった  招待客のリストも出来た

あなたは幸せいっぱいの未来を語り続ける

.

喜びの顔を作る母は  一つ決まる度に  

あなたと繋いだ指を一本ずつ離すように  寂しい涙を抑える

あなたの存在がどんなに大きなものだったか

私は自分が押さえ込んだ涙の量に知らされる

.

あなたが素晴らしいひと(男性)と巡り会い愛し合って結婚する

その幸せを一番願っていたのに

一緒に喜びたいあなたの幸せが私の背に重い

.

あなたが嫁ぎ行く日

父は遣り切れない寂しさを噛み締めるだろう

そして----------------------私も

.

.

.

息子

【雨】

昼間の好天気を  引っくり返して大粒の夕立

窓を叩く雨に  私の刻が 過ぎた日に戻っていく

.

母であることに鍵をかけ  

家を出た足は  毎日 時間と競争していた

.

突然振り出した雨が 

傘の迎えも無く ずぶ濡れで 重くなったランドセルに

肩を落としながら学校から帰る  小さな息子の涙に思えて

私も 傘を差さずに歩いた日

.

いまなら 傘を届けてもやれるのに

十四歳になった息子は  もうそれを望みはしない

.

私は 追憶の中で 迎えに走る

.

.

.

【母

久し振りに訪ねて来てくれたというのに・・・

まだ 十日も滞在するというのに・・・

来たその日から  帰りの支度を考えている母

.

近所に預けてきた植木鉢と 言葉を話すインコが

そんなに 気にかかるのか

ゆっくり聞いてほしい話が 山ほどあるのに・・・

.

曇り一つ無く磨かれた台所に

「水周りの掃除で 女の値打ちが分かるのよ」と

小言交じりにも手を休めない 六十歳台半ばの母の後姿が

母が帰ったあとも はっきり残って映る

.

.

.

【母の心】

花曇りに吹き散る桜の花弁模様

秋月の野に乱れ咲く白菊の群れ模様

どちらも

その季節のほんの数日だけ着る 和服の絵柄

.

「どうせ 普段は洋服ばかりでしょうから」と

せめて年に一度かニ度の遊びを

嫁ぐ娘の箪笥に忍ばせた  母の心

.

あれから二十数回余の季節を繰り返し

なのに・・・

しつけの糸もまだそのまま

母が願った“心の贅沢”さえ忘れている

.

もしや・・・

絵柄の木は とうに枯れ  花々も朽ち果ててしまっているかと

そんな怖さから

今年も たとう紙は開けず  そっと当てた手に母を感じている

.

.

.

【藍色撫子花の団扇】

ハタリ  ハタリ

藍色撫子花の団扇が揺れる  早くお休み・・・と

ハタリ  ハタリ

もう 眠ったか・・・と

ハタリ  ハタリ

遠いかなたの日  私に母さんの添い寝

.

ハタリ  ハタリ

藍色撫子花の団扇が揺れる  元気にお育ち・・・と

ハタリ  ハタリ

おまえはいい子だ・・・と

ハタリ  ハタリ

幼い日の夢うつつ  私と母さんが二人

.

ハタリ  ハタリ

久し振りに クーラーを止めて

酒屋が置いていった  お中元の団扇を使ってみる

.

ハタリ  ハタリ

ひとり涼んで横になる  夏の夕べ  

ハタリ  ハタリ

ふるさとの風が揺れ  母さんの匂いが揺れ

藍色撫子花の絵柄が懐かしい

.

.

.

亡き父

【戻りの無い道】

三日も続いて 雪は地を走り 風は梢に哭いていた

街はすっかりその姿を変え

聳え立つ吹き溜まりが 造形の総てをかき消していた

.

十二月十二日

故郷は山の神の日

人々は息を潜めて地吹雪が過ぎ行くのを待つ

.

そんな日に  招かれた結婚式は昼からで

父は朝風呂で身を清め  紋服に威儀を正して

消されかけた道を探り 踏み固めつつ出かけた

.

雪は知っているか  風は見ていたか

戻り道を見失い  探しあぐねて凍えた父を

山の神に連れて行かれた その先を

.

十二月十二日

故郷の山の神は荒れる

道も戸口も  雪と氷に塗りこめて

怯える人々の 呼び合う声さえかき消してしまう

.

.

.

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《その(2)・・・心(思い、願い、愛、ほか)》

思い

【イヴ】

手のひらに乗せて見る林檎  ハートの形

濡れたような紅い艶は  ときめきの鼓動さえ伝えるようだ

熟れた果実の香りは  堕散る前の危険な予感

甘酸っぱい汁の滴りが  私の唇を誘惑する

.

いまの私  とても林檎を齧れない

.

明日の私  きっとイヴには戻れない

.

.

.

【思い】

人は言う  「思いは姿、形に表れる」と

思いを  思いのままの色や形に表せたら、いい・・・

.

思いを伝えたい時  言葉の足りないもどかしさ

表情の乏しい情けなさ

私の 何を以って  この思いのたけを表せるのだろう

.

人は言う  「思いは理性で抑えられる」と

思いは  思いのままで煙や風のように流れて消えれば、いい・・・

.

思いが残っている時

心に溜まる澱みの重さ

私の 何を押さえ込んで  何も聞こえない真空の淵に

この思いの影が剥がれ落ちていくのか

.

人は言う  「思いはその人それなり」と

.

.

.

【好き嫌い】

色なら原色  花なら薔薇  酒・・・バーボンか

歌ならジャズ  人・・・人はいろいろ

.

はっきりしているのが好き  中途半端は嫌い

そう言い切って 突っ張ってきたのに

でも  人・・・人は分からない

.

私だって内心では  

淡い色が似合う女性に憧れ  控えめにそっと生きていたい

フリージアや雛菊も可愛いと思うし  たまには日本酒もいい

しんみり演歌を聴くのも悪くはないと思う

だから  人・・・人は見えない

.

どんな時でも  幾つになっても

人の好き嫌いだけは  口に出せない

人の好き嫌いだけは  決められない

.

人  人はさまざま     人は・・・

.

.

.

【考えない葦】

あなたは誰?  と聞かれれば

母です  妻です  私です  とは答えられる

.

あなたは何?  と問われれば

女です  とは答えられても  人間です と答えられるか

.

知恵があるから人間で

考えることが生きていることだという

だからこそ「人間は考える葦である」と  先人は言った

.

考えない葦は  人間どころか葦にもなれない

一本取り残されれば

風に折られ  流され  枯れていくだけの、草

.

知恵を持たなければ  助け合うことも知らず

上手く生き延びる術も無く

しなやかに風を避けることも出来ないままに  傷み朽ちいく

.

考えることを忘れたら  人間であることを忘れたら

葦にもなれない  

.

ただの草

.

.

.

【私の味】

塩焼き  煮つけ  天婦羅  フライ  唐揚げ  

蒸し物  酢の物  マリネ  ムニエル・・・etc

.

一つの素材も調理次第  包丁ひとつ  火加減ひとつ

使うスパイスや調味料で

同じ素材とは思えないほど  料理されて変化をみせる

.

私を料理したのは誰?

スパイスは仕事だろうか  調味料は友だちかもしれない

.

私の味は  甘いか辛いか  それとも苦いか

少なくても  上出来の料理とは思えない

.

私を料理したのは  いったい誰

.

.

.

【嗜好】

年ごとに薄い味付けが好きになる

シンプルな料理が望ましい

肉よりは魚  そして野菜へと嗜好が移り変わっていく

.

濃厚な味 脂気の多い料理 胃に溜まる重いものも

好んで食べていた かつての頃は

私の感情は剥き出しに顔に表れていた

喜怒哀楽のうねりが いつも胸を掻き乱していた

.

嗜好の変化は 私自身の変化か

いまは  感情をあからさまに表すことが少ない

胸の波立ちもコントロールできる

.

薄味で シンプルな料理ほど 

下拵えに時間がかかり  調理に熟練が要るという

それだけに深い味わいになると

.

この頃 

淡白に暮らせるようになったのは 嗜好の変化につれてか

それとも  それなりの年季だろうか

.

.

.

【苛立ち】

痩せて萎びた胸肉だけれど あばらの隙間まで削いでミンチ

心臓に集まるなけなしの血を ありったけ加えて

溜め込んでいる涙で塩味をつけよう

.

握り拳を叩きつけるように 力任せに練り上げたら

細く脆くなっているだろう腸に詰めて  しばらく弱火でボイル

.

出来たソーセージは

ぴかぴかに磨き上げた 真っ白な洋皿に盛って

舌がいつまでもヒリつくほどの 思い切り辛いマスタードを添えて

あなたの食卓に

.

言葉は信じられないと言うのなら

私を丸ごと食べてみればいい

.

・・・こんな腹立たしさも  ときには ある

.

.

.

【空虚な心】

街は原色の夏  ゆらりと眩暈が私を揺する

身を射る熱い陽射しを避けて メトロの階段を下りると

そこは偽りの街

.

うつろな広がりが いまの私には良く似合うだろう

.

街は輝きの季節  ふわりと眩暈が私を包む

心を裂く強い陽光を逃げて メトロの片隅を歩くと

そこは空しい街

.

作られた華やかさが いまの私には相応しいだろう

.

何も無い夏を繰り返し  何も聞こえない真空の淀みに

空っぽの私だけが取り残されていく

.

.

.

.

願い

【花のこころ】

人は なぜ花を贈るのか

人は なぜ花を飾るのか

.

誰にでも 花を愛でるこころがある

.

暗く黒い土の中に  生命を育み

しっかり踏ん張って  芽を吹き  葉を広げ

見えないところで  花を支え  花を守る

・・・根

.

花は 美しく咲くことで応える

.

人は そこに真心を見る

人は そこに誠実を感じる

.

人は 花に  自分の心を託すのだ

.

.

.

【春は来る】

春はすぐそこ

重い上着は脱ぎ捨てて  出かけておいでよ

部屋に鍵をかけて 閉じ籠もっていては

萌える春草の香りも 届きはしない

.

春はすぐそこ

黒い着物はもう仕舞って  外に出ようよ

窓のカーテンを引いたままでは

明るい日差しも 頬を暖めることは出来ない

.

春が来ている

湿ったベッドから抜け出して  深呼吸をしようよ

心を塞いでいたら 体まで締め付けられ

明日を運んでくる春風も 素通りしてしまう

.

話そう  謳おう  春を迎えようよ

.

季節は必ず巡り変わるもの

どんなに冬が長くても  凍りの緩む時はきっと来る

あなただけに春が来ないなんて  そんなことは無いのだから

.

春は来る

あなたの春も  ほら来るわ

.

春はそこまで来てるのよ

.

.

.

【自分へのエール】

唾液にまみれた思い出の歌  手垢に汚れた懐かしい場面

擦り切れて形もぼやけた  果たせなかった夢

.

そんなものを捨てきれずに居るのは

味の無くなったガムを  何時までも吐き出せずにいるのと同じ

口寂しさを紛らわしているだけの行為

まやかしの快感に酔って  真実が見えなくなってる

.

それらは 魔法使いの呪縛だ

早く、早く気付け  呪縛の中の居心地よさは偽物だと

早く、早く逃げ出せ  魔法使いに気力を吸い取られきる前に

.

心を慰める  口馴れた歌

自分に都合よく 脚色した思い出

世間知らずの頃のまま抱えている 甘えた夢

.

そんなものから抜け出せないのは

ぬるま湯で体がふやけても  何時までも立ち上がれないのと同じ

.

魔法使いの呪縛は

先を見ることや進むことを止めさせて  生きながらの廃人を作る

.

早く、早く気付け

早く、早く逃げ出せ

.

気付いた時には  昨日までの甘い言葉は石礫に変わるだろう

.

怖れるな  泥の堆積と茂った藪が見通しを遮り

棘が行く手を阻むだろうが 這い蹲って進むのだ

.

頭を上げるな  身を起こすな

魔法使いが諦めて 手を引くまでは  静かに潜行するのだ

長い時を費やしても  その道は光差す野へと続く

.

今を変える勇気さえあれば  きっと闇は夜明けに通じる

.

覚悟の足を踏み出す自分へ  自分からのエール

.

.

.

【遊びに来てね】

春になったら  遊びに来てね

駅から右に 角を三つ

そこから先は 桜並木の花トンネルが、ご案内

.

花が咲く頃  遊びに来てね

駅から見える 時計台

それを目印に 降り頻る花弁の下を、歩いてね

.

暖かな日に  遊びに来てね

駅から近い公園前  石に躓かないで

その日はたんと 花の宴のご馳走作って、ロンドを踊ろう

.

.

.

【見失ったもの】

不注意に手を放して 

落として割ってしまった  あなたの心

.

砕けて散った心は  

拾い集めて継いでみても  もう元には戻らない

小さな欠片の一つか二つ  きっと見失っているから

.

穴の開いたあなたの心を  両手にしっかり包みながら

見失った欠片を探し続けている

自分への問いかけのように  ・・・・いま

.

.

.

【羽化】

心が身体を離れて  心があなたの許に飛んでいく

からっぽの私の抜け殻

.

今朝  庭の木の幹に見つけた蝉の抜け殻

フワフワと風に揺れ  カサコソと壊れそうに哀しい

.

飛び立った蝉は  羽いっぱいに陽をはじいて

木から木へ  短い命を啼いているのだろうか

.

飛び去った心よ

せめて あなたの住む街にいき  思い切り啼くがいい

.

.

.

【冬の薔薇】

冬枯れの中  裸になった薔薇の枝先に

赤い大輪の薔薇ひとつ

色暗く  花弁捩れて  数日の命燃やす

.

木枯らしの中  細い枝にしがみつき

かすかな陽射しに面伏せて

艶無く  花芯凍えて  さらになお命悶える

.

冬枯れの薔薇よ  

なぜ  時を外れてまで咲こうとするか  

あわれな薔薇よ

なぜ  散ることをそうも惜しむのか

.

.

.

【雪魔よ、雪女よ】

なにが不満なのだ

戸を叩き 樹木を哭かせ  地を駆けて暴れ狂う雪魔よ

やっとお前が眠りに就いた暁  世界はすっかり姿を変えてしまう

お前が荒れる夜  私の心も穏やかではいられないことを

お前は知っているか

.

なにが辛いのだ

屋根を軋ませ 樹木をへし折り 道を潰して涙を降らす雪女よ

やっとお前の心が晴れる宵  世界は何一つ見えなくなっている

お前が泣き続けた朝  私の心も掻き毟られていることを

お前は知っているか

.

夜通し吹き荒れる雪魔よ

朝から悶え泣く雪女よ

お前たちが 感情を叩きつける時

泣くことも 狂うことも出来ず

じっと耐える者がいることを知っているか

.

.

.

【とぎれ言葉】

旅立ちの日  遅い春の 風のホーム

「俺・・・」

言いかけて眼を伏せた、あいつ

.

   何が 言いたかったの

   何を 伝えようとしたの

.

ほんの一瞬のふたりきり

みんなが それぞれの別れを持って集まり

それきり聞けなかった言葉の続き

.

二人の間に“恋”があったわけでなく

特別の約束など  もちろん何も無い

.

なのに  あの時のあいつの迷いが

過ぎ去った電車のあとに  線路脇で揺れていた紫大根花の

微妙な震えが  心の隅に引っかかって 時折揺れる

.

二度と会わない  二度と会えない

一つ年下のあいつの  途切れ言葉

.

.

.

【揃いのぐい飲み】

ろくろが回る  土が回る

ちょっと歪んだぐい飲みができる

あなたのと  私のと・・・ふたつ

.

飲みながら語り明かすつもりで作ったはずが

窯から出したその日には  使える当てが無くなって・・・

.

相手人の居なくなった揃いのぐい飲みは

割ってしまうには悲しくて

しまい込むのも寂しくて

.

だから  いつも並べて酒を注ぐ

眩暈とともに沈む闇で  帰ってきて、と酒を飲む

.

.

.

***********************************************

《その他・・・病気、介護、仕事、ほか》

病気

【拾っているもの】

ニトロの小粒が 下で溶けて  

心臓を刺していた錐が一本ずつ抜けていく

今日もまた ささやかな命を拾った

.

静まってきた眼を起こせば

不安と不審の視線が幾つか  ホッとしたように急ぎ去る

帰宅電車が 唸り通る地下鉄ホーム

どの人の背にも 疲労の影が貼りつき

無言の表情は 一日の戦いのあとの空しさ

.

それでも 思いやりのカケラは

先を急ぐ足に蹴飛ばされもせず  私の足許に転がり残る

.

命を拾うたびに 一緒に拾い上げるもの

それは 人々が落としていった  やさしさ・・・だろう

.

.

.

【退院のち】

もみの木が  夕べの嵐で折れた

青々と茂っていた若木のはずが 

何時の魔にか蝕まれていたらしい

風の強さに耐え切れず

ボキッ、と 根元から折れた

入院を控えた朝のこと

.

不吉     いやだ

.

病院に向かう足が鈍る

よりによって こんな朝に

.

もみの木が  折れたことを忘れかけたころ

退院できた

折れた後はきれいに片付けられ  埋め戻されて跡形も無い

.

縁起    こじつけ

.

何にでも神経質になっていた入院前

何でも笑い話にできる退院後

.

空が すもものように 軽く匂って

.

.

.

【気がかり】

近頃  過ぎた刻を振り返ることが多くなった

その刻に居た場所  出会った人達  起きたことがら

こでまりの花のデリケートな揺れなどまで

無性に懐かしく 手繰り寄せている

.

遣り残していたこと  言い忘れていること

途切れたままで けじめのついていない思い出が

胸の中でわだかまる  喉の奥で難渋する

.

病があればこその 気がかりと思いつつ

懐かしさからも 離れかねて  過ぎた刻に戻っていく

拭き残した足跡を 探している

.

.

.

【花粉症】

くしゃみ  涙  鼻水  痒み

春の悩みは  杉の花粉のいたずら

.

時も場所もわきまえず  連発するくしゃみ

痒みを伴って瞼を腫らす ひっきりなしの涙

湧き出るように止めどなく流れる鼻水

.

滅多に汗さえ出ない  痩せ枯れた我が身の

何処にこれほどの水分があるのか  花粉の季節の不思議

.

思考  理解  判断

みんな何処に影を潜めたか  真っ白な頭の中

.

くしゃみと同時に噴出す涙や鼻水

これは・・・もしや・・・なけなしの脳ミソが溶け出している?

・・・ふと、思う

.

屑篭にうずたかく積もり溜まるティッシュペーパーの山

私の思考も理解も判断も  あの中か?

血走った眼がそこに釘付けされる

.

花いっぱいの春

美しく爽やかなはずの季節に  赤く爛れた鼻とボッテリ腫れた瞼

.

季節に不似合いか  似合いか

花粉のいたずらは  春の命萌えるいたずら

.

.

.

【ゴメンね 友よ】

「襟ぐりの大きく開いた服は もう着られないの」

あなたの瞳が ほんの一瞬  悲しい色に揺れた

.

ゴメン  友よ

勧めて広げたブラウスをかざした  迂闊な私の手が凍りつく

.

子供の頃からの仲良し  

いつも 私の後を追いかけて 転んではべそをかいていた

あの時の あなたの瞳を思い出した

.

ゴメン   友よ

高校を出てからは、年に一度も会えるかどうかの歳月

たまに会うあなたは いつもにこやかで朗らかで

かつてのべそっかきの面影は 何処にもなかった

.

そんな あなたの笑顔に  すっかり忘れていた

あなたが一年前に受けた大きな手術のこと

その傷が 胸に大きく 無残に残っていること

.

ゴメン   友よ

乳房を失って  あなたは目に見える傷より

もっと大きく深い心の傷を  その胸に抱えているのね

それなのに あなたの笑顔は美しく

そんな笑顔でいられる強さを あなたは持っているのね

.

ゴメン  友よ

べそっかきだったあなたは  私の数倍成長して

私の病をいたわり  私のグチまで聞いてくれていたから

忘れていた  私より  ずっと大きな心と体の傷跡を

.

ゴメン  友よ

明日の命を見つめ  今日の命に微笑み感謝する 友よ

.

あなたの半分でも 優しくなりたい

あなたの半分でも 健気に生きたい

あなたの痛みも分かち合える デリカシーと心の広さを持ちたい

.

.

.

介護

【人間の証】(私が入院し病院の介護病棟で

老いて認知症が進み  寝たきりになったKさん

たぶん  記憶は一欠片も残っていないのだろう

五人生んで育てた子供たちの  どの顔も忘れてしまった

自分の名前も 生い立ちも覚えてはいない

いまの Kさんに残っているのは

その都度の体調で変わる喜びと怒り・・・悲しみは、無い

それから際限の無い 旺盛な食欲

そして  おしめ交換の時だけ見せる羞恥心

.

体の何処にも痛みが無く、室温は快適で寝心地良く  

お腹も満ちて  お気に入りの介護士が傍にいる

そんな時のKさんは  静かで穏やかだ、が

どれか一つでも欠け  気に入らないと

手当たり次第に物を投げ  ベッドで暴れる

.

食べ物を見ると眼を輝かせ  思うように動かない手指で鷲掴み

ガツガツと幾らでも口に突っ込もうとする

顔も 手指も 棟も 布団までドロドロに汚し

獣のような声を発して  傍に居る者の心を掻き毟る

.

そんなKさんが おしめ交換の時は

剥き出しにされる恥部を 懸命に隠そうとする

何処に残っていたかと驚くほどの力で脚を合わせ

両手で前を被って  晒されることを拒否するのだ

.

喜びや怒りは  犬や猫でも表現する

食欲は  生きるもの総てにある

しかし  羞恥心は人間だけのものではないだろうか

.

おしめが汚れる自覚さえないのに  晒される恥部を隠そうと

身を捩って抵抗するのは  Kさんに残された羞恥心だろうか

.

女として  人間としての  最後の証ではないだろうか

.

決して獣なんかじゃないと 最後の最後まで残るのが羞恥心ならば

人間の証とは  なんと美しいものだと思う

.

.

.

【老いた心の戻る世界】(私が入院した病院の介護病棟で

Sさんの戸籍上の年齢は八十七歳

でも  いま彼女は三歳の心の世界に住んでいる

大きな地主に生まれ  乳母日傘で育ったらしい

村で評判の可愛い娘で  嫁にとの引く手あまた

嫁いでは年子で男児を五人  戦時中だけに村の誇りとだったと

三十歳代に夫に先立たれ  婚家の商売を守り

舅、姑、息子たちを守ってきたが

いま  息子たちの誰ひとり 彼女を引き取る者はいない

.

認知症が強くなって六年  

娘ほどの介護士を  乳母だと思い込んでべったり甘えている

わがままを言っては ぐずったり拗ねたり

そんなSさんの顔は幸せそうだが・・・

.

この病棟では誰もが  三歳の世界に住むSさんより知らない

息子たちの顔も 息子を産んだことさえ忘れて

乳母に甘えていた幸せな子供時代にもどって

Sさんの人生  結果は幸せなのだろう

.

.

Kさんの戸籍上の年齢は七十九歳

でも  いま彼女は三十歳代半ばの心の世界に住む

貧しい農家に生まれ  爪に火を灯す暮らしだったという

奉公続きの娘時代

嫁いだ先も貧しくて  七人うんだ末子は里子に出した

働き者の夫婦でも  暮らしは何時までも良くならない

満足に学校も出せなかったという子供たちは

みんな母親思いで  良く見舞いにも来る

.

しかし  彼女の心を塞ぐのは里子に出した末の赤ん坊

何処に行ったのかと  血眼で病院中探しまわる

萎びた乳房を揉み  おしめを畳む

母親思いの子供たちは為す術無く Kさんの嘆きを哀しく見つめる

赤ん坊を手放した母は  三十歳代半ばの悲しい時代にもどって

彼女の人生  結果不幸に終わるのか

.

.

誰にも来る老後  私も認知症になるかも知れない

その時

その時  私は何歳の心の世界に住むのだろう

老いた心が住む世界  自分では選ぶことの出来ない世界だ

.

.

.

仕事

【ラッシュ・タイム】

通勤電車のホームは  息つく間もない流れ作業

酸欠で喘ぐ鮒たちを押し込め  詰め込み

光と轟音を撒き散らして  十二両の箱が行き来する

.

帰宅時間の線路は 溜息交じりの運搬作業

疲労に苛立つ鮒たちを揺すって  運んで

ネオンから闇へと時を刻ん  十二両の箱が移り過ぎる

.

通勤電車往復は  飽くことのない振り子作業

それぞれの鮒たちの思惑など無視し  軽視して

職場と住まいを繋ぐだけに  十二両の箱が流れる

.

鮒たちの命を削って  十二両の箱は突っ走る

.

.

.

【私が残すものは】

老舗とか名店とか言われるところには

親子何代もで守ってきた味や形がある

名匠や名工と言われるひとには

次の世に残す技や心がある  

.

それを伝統と呼ぶのだろう

.

私に 親が伝えたものは何だろう

私が 子らに残すことは何だろう

.

受け継ぐ手応えがあり  守っていく標が明らかならば

そこにあるべき自分の姿も 自然に見えてくるだろうに

.

これ、という確たるもの  胸を打つもの

重みを持つものが羨ましい

.

私に伝えられたもの  私が残すもの

それが何なのか  未だに分からずにいるもどかしさ

.

.

.

その他

【酔いの先には】(この詩は作曲され、著作権が発生している

美味しいと思って飲むわけではないけれど

少しずつ  少しずつ  酔っていく心地良さにつられて

グラスをまた替える

.

もうちょっと  もうちょっと  酔いが深まったら

忘れかけている笑いを取り戻せるかと

自分を包んでいくけだるさに  身を預けて頬杖をつく

.

あと一杯  あと一杯  今夜もそうして飲みすぎる

.

.

楽しいと思って飲むわけではないけれど

少しずつ  少しずつ  大胆になれる面白さにつられて

グラスがまた増える

.

もうちょっと  もうちょっと  酔いに墜ちたら

思い切って違う世界が開けるかと

自分が見えなくなる虚ろの底で  変わることも出来ず溜息をつく

.

あと一杯  あと一杯  今夜もこうして飲み過ぎる

.

もうちょっと・・・

.

あと一杯・・・

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コメント

ば~ばさま
ジックリと詩を拝読させて頂きました【*^-^*】微笑

本を読む習慣の無いァタシにとって・・・
ば~ばさんが書かれた詩の内容に惹きつけられる何かがありました。

多分!
実生活の中でうまれた詩ではなかろうか?

そう~想うと・・・疎かな気持ちでは読めない!

ァタシの過去の中にあった時間がダブル詩もございましたし
共感することしばし。

感情 想いを文字にするには中々難しくて出来ないァタシです。

ば~ばさんの
感性豊かさと、心優しさを感じました♪
詩の本まで出されておいでのよぅで素晴らしいお方なんですね【*^-^*】微笑

投稿: こゆき | 2009年2月23日 (月) 17時08分

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