寒天の名誉
『寒天の煮返し』という諺がある。
見かけだけは美味そうだが、実際食べると味がない・・・見かけだけ、という喩えに使われる。
たしかに、寒天の元・トコロテンの98%は水分で、残り2%も海藻類の粘液質。 その2%の粘液質を残して、水分を乾燥させたのが寒天だから、計算上から言うと、100gのトコロテンからは2gの寒天が出来る。
それを煮たからといって、トコロテン状に戻るだけで、味が出るわけは無い。
トコロテンは、漢字では「心太」と書くが、昔はこれでココロフトと呼んでいた。
さらに、その昔は「凝海藻(こるもは)」だったと、平安時代の書物にある。
この海藻類粘液質の食品化は、奈良時代にはすでに僧侶たちの間で食べられていたようだ。
また、朝廷の月々の供え物としても使われていたとの記録もあるから、歴史はかなり遡ると思われる。
トコロテンは、テングサという海藻を煮出し、ドロッとした液を濾過し、上澄みを採取して、それを冷し固めたもの。
海藻の加工品として独特の食品だ。
原液から抽出したものだけに、少し臭いもあり、色も良くないが、これを天日干しして、寒天にする製法が発見されてからは、その寒天からトコロテンを作るようになった。
寒天にしておくと、貯蔵も簡単で、一度晒されるだけに臭いが消えて、味覚が良くなる。
江戸時代の書物には、寒天から作ったトコロテンのほうが上等で、値段も高かったそうだ。
心太 滝みる心 涼やかに 反哺
暑い日に心太を突くのは、滝を見るように、眼に涼やかだ・・・と言った句。
昔は、今のように、既に突かれた状態で、売られていたのではなく、テン突きと呼ばれる細長い箱に、トコロテンを滑らせるように入れ、突き出しでキュッと、網目を通して押し出していた。
さっきも書いたが、ほとんどが水分で、蛋白質も糖質も、ほかにも特記する栄養は無い。
そうではあっても、古代から、今に至るまで、食品として珍重されているということは、栄養だけで評価出来ない何かを持っているのだろう。
『寒天の煮返し』なんて諺は、寒天の名誉のために返上したい。
さて、寒天は、製法によって、天然寒天と科学寒天(工業寒天)に分けられる。
天然の寒気で乾燥させるのが天然寒天で、長野・山梨・岐阜・大阪・京都・神戸などで作られる。
寒天の形としては、角(棒)寒天、糸寒天、粉(末)寒天、フレーク寒天などがある。
糸寒天は弾力性や粘度が強いので、少々高価だが、和菓子屋に利用される。
一般には角(棒)寒天が使われることが多いが、最近では使いやすさから粉(末)寒天が普及している。
クラゲの代わりに糸寒天を水戻しして使った。
中華風ドレッシングが糸寒天に合う。
《ば~ばの食べ物事典》を作りました。ご参考になれば幸甚。
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