卵の話と温泉卵
また鶏~って、皆様のうんざりする声が聞こえそう。
でも、もう一回だけ我慢して付き合って~。
昨日で終わるつもりが、肝心のことを忘れるところだったんだもの。
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鶏の話の十回目(最終回)は鶏の子、“卵(玉子)”
鶏は古代から「暁を告げる鳥」として飼われていた。
それは肉用や卵用というより、時計の意味があったといわれる。
“ニワトリ”は庭鳥、家の庭で放し飼いされていたからだが、当時はニワトリとは呼ばず、「イエツトリ」とか「カケ」と呼んでいた。
イエツトリは家つ鳥、カケは鳴き声(当時は鶏はカケロと鳴くとされていた)から。
現代の養鶏は雌鳥ばかりで、鳴き声も不定期になり、時刻告げなど当てにもならないが、昔の放し飼いの鶏は、通常午前2時頃の未明に一番鳥が鳴き、鳴いた午前4時頃には二番鳥が鳴いたそうだ。
旭時と 鶏(かけ)は鳴くなり よしえやし
ひとり寝る夜は 明けば明けぬとも(万葉集)
ニワトリが朝を呼ぶ鳥として記述に登場したのは『天岩戸』の神話だ。
この中ではニワトリは「常世の長鳴鳥」と呼ばれているが、常世とは「常春の不老長寿国」と思われて理想郷とされていた東南アジアの熱帯地方。
常世はニワトリの原産地でもある。
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古代人が飼っているニワトリやその卵を食べるのは、“薬餌”の意味があった。
それは薬効より滋養を考え、体力を付けることで回復力を強め、体内の悪魔を追い出そうとしたのだ。
『万葉集』には、「鶏子」という言葉も出てくるがこれが“たまご”のことだ。
その後、江戸時代になると鶏卵ブームが一気に開花する。
それには、こんな理由があるようだ。
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獣肉を禁じられた江戸時代にも鳥肉は食べたようで、鴨、雉、軍鶏などは記述がある。
ただ、鶏は例外で“殺生禁止令”の対象にもなっている。
時を告げる神聖な鳥として、崇められていた鶏は鳥の例外にされたのだ。
しかし、鶏の卵に関しては禁じられていなかったので、『江戸料理本』にも『玉子百珍』が紹介され、『守貞漫稿』にも茹で卵売りの話が出ている。
池波正太郎が書く藤枝梅安は、『梅安乱れ雲』の中で「梅安は、鍋の熱い味噌汁へ生卵を二つ落とし込んだ・・・」。
また『好色一代男』(井原西鶴)には、女護ヶ島に向かう“好色丸”には山芋や牛蒡と一緒に生卵をたくさん積み込んだと書いてある。
つまり、江戸時代も後期になると、鶏卵は江戸庶民の大好物として普及していたとわかる。
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『本朝食鑑』(1695)に、“ニワトリ三徳”として次のようなことが挙げられている。
➀、雨風強く、昼夜の時も判別できなくても、鳴き声で時刻が分かる。
➁、庭にこぼれて土砂に埋もれた穀物や豆などを、すっかり食べてくれる。
➂、多数に飼育すると産卵数も増え、時には売ることで臨時収入がある。
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韮のお浸しと温泉卵
卵は一羽のニワトリになるためのすべての栄養素を持っている。
だから病人の体力作りにも、貴重な「完全栄養食品」といわれる。
数年前までは、「病気見舞いには卵」といわれていたくらい・・・。
かりそめの恙(つつが)に臥して玉子酒 たき江
風邪には卵酒とは昔からの民間薬だ。
また、最近はやっている民間薬の“卵油”、実はこれはすでに江戸時代の『本朝食鑑』に製法が記載されている。
一時期、コレステロールが問題視されたが、これは毎日多量の卵を摂取した場合のこと。
いまではむしろ記憶力維持や脳細胞の活性化に有効なレシチンが豊富なので、“健脳食”といわれている。
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因みに、簡単な“温泉卵”の作り方は
- まず、卵(4~5個)は常温にしておく。
- お鍋に卵が浸かるくらいのお湯を沸かす。
- 片栗粉(大1)を30ccほどの水に溶き、2の鍋に入れて薄いトロミを付ける。
- 鍋をコンロから外し卵を入れ、蓋をして15分ほど置く。
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