私の詩集は、三集あり、二冊出版されてます。
それらの中で、出版準備中は、発表できませんが、第一集・第二集から選んで、テーマ別に纏めて見ました。
その(1)・・・家族(家族、夫、娘、息子、母、ほか)
その(2)・・・心(思い、願い、愛、ほか)
その(3)・・・その他(病気、介護、仕事、ほか)
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《その(1)・・・家族(家族、夫、娘、息子、母、ほか)》
家族
【赤い糸】
生まれる前から結ばれているという 縁(えにし)の赤い糸
.
もつれた糸を手繰り寄せ 切れた糸を繋ぎ直す
.
太くても脆い糸 細くても強い糸
糸は心が紡ぐのか 赤の色は血潮が染めるのか
.
長すぎる糸は いつまでも その結ばれた先が見えません
.
愛という字の裏側が見えません
.
母の母の
そのまた母の母の ずっと先が見えません
.
孫の孫の
そのまた孫の孫の ずっと先も見えません
.
.
.
【回復期】
「そろそろお粥になったかい?」
ベットの傍らに寄るなり 夫が聞く
米粒が数えられるほどの薄いお粥 3日前から始まった流動食
味の付いていないスープでさえ 美味しいと思った一匙の重み
.
「ねぇ お通じ ちゃんとあった?」
耳元に唇を付けるように 娘が問う
人差し指と中指とでVサイン
手術前の浣腸から一週間 順調に回復していく喜び
.
「ヘイ! おふくろさん 眠れたかい?」
病室に入ってくるなり 息子が聞く
やっと体が動かせるようになった朝
術後10日での熟睡 手足を伸ばせるようになった心地よさ
.
“持病”になった病との付き合いは これから何年続くのだろう
それでも この家族の優しさと 回復の喜びがあるから
私は頑張っていける
.
.
.
夫
【鯨の群れる海に】
目の前の沖合いに 鯨の親子が戯れる浜
マウイ島カアナパリビーチ
ザトウクジラが 数メートルの巨体を海上に躍らせ
見事な尾鰭を翻して海面に身をくねらす
.
空も水も風もみな蒼い マウイ・ノ・オイ(マウイは最高)
死んだらこの海に散骨してくれ、と
聞いたことも無いほど明るい声で 夫が話しかける
.
飛行機嫌いで 一度も海外旅行に付き合ったことが無いのに
欝が続く私の気を晴らそうと 自分から誘ってくれたハワイへの旅
.
あちこちと回って すっかり気に入ったのがこの浜
老後はここに永住しましょうかと 私も夢のような返事をする
散骨で撒いた骨が
鯨の子育てを見守り 子鯨のオモチャになるだろうか
夫と私は顔を見合わせ
秘かな笑みを交わす
.
ちょっと足を伸ばして ラハイナでショッピング
バニヤンの大樹が枝を広げ 枝から蔓のように根が降りて
それが幹に変わって また枝と根を増やしている
一本の樹が周りに子を育て さらに無数の孫を増やして
みんな連なっている そんな木蔭を散歩する日々
.
時には車でハレアカラ火山国立公園に行こう
十数年でやっと花を付け 咲くと直ぐに枯れて命を終えるという
幻の銀剣草に逢いに行くのもいい
.
親と子と孫と しっかり繋がって大樹になるか
溶岩に根を張り 強風に晒され
孤独に小さな花を咲かして枯れるか
鯨が群れる海に包まれて マウイ島の命はそれぞれに輝く
.
アロ~ハ
現地の青年たちが背後で声をかけ
自転車に乗ったまま 手を振って通り過ぎる
アロ~ハ
近い将来に きっとあなたたちの住むこの島、この浜に
再び訪れることが出来ますように・・・夫も私も同じ思いで
少し日焼けした皺の多い手を 千切れるほど振り続ける
いつの日か
この鯨の集まるラハイナ沖の海水に溶け込みたい
振り続ける私達の手に 共通の願いが握られた
.
.
.
【伊豆の旅】
岩を砕く波の飛沫が 風に巻き上げられて
覗きこむ前髪を濡らす 伊豆城が崎の断崖
.
どれだけの足が通ったのか
踏み固められた 急勾配の山道は
中年夫婦の辿ってきた道にも似て
.
季節を外した晩夏の夕暮れ
行き交う人もまばらになって・・・
労わりあえる時がきたのでしょうか
.
私の髪を拭く 日焼けした夫の腕にも
薄やかに波のしぶきのヴェール
.
黄昏色に キラリ キラリ
.
.
.
【寂しい家】
二月始めの凍てつく夕方
夫はひとり 新任地の札幌に赴いた
.
寒いから イヤ 遠いから イヤ
そんな我儘を言って すぐに着いて行かなかった私
.
夫を見送った駅前の花屋に
春を告げる 色とりどりのスウィトピー
.
店にあるだけ 両手に抱えきれないほど買って
玄関に 食卓に 寝室に・・・
家中いっぱいに飾るスウィトピー
.
花に埋もれると 寂しさが家中に・・・重く
.
.
.
娘
【チビママ】
中学校に入った時から 家事の大半を代わってくれた娘
「お仕事中は 家のこと忘れてていいよ」と おとなでした
.
「徹夜は身体を壊すわよ」なんて
まるで 母親が娘を気遣うように
そっと煎れてくれる珈琲の湯気は 喉より眼に熱くて・・・
.
受験勉強の参考書を片手に 支度しておいてくれる夕飯は
どんな名店の どんな立派な食事より
心満たして 美味しかった
.
ふざけて チビママって呼んだりしたけれど
精一杯の感謝でした
.
.
.
【娘が嫁ぐ日に】
花嫁の父は 娘を手放す寂しさに悲しみの涙を流し
花嫁の母は 娘の幸せに共感して嬉しい涙を流す
.
ずっとそう思い、そう信じていた
それなのに あなたが嫁ぐ日が近づくほどに
私の胸に広がっていく寂寥感と虚無感
.
「Mさんを私にいただきたく お願いに上がりました」
誠実な人柄そのままの しっかりした口調の挨拶
.
あなたには想いを寄せるひと(男性)が居ると気付いてから
この言葉を聞く日を心待ちにしていた
それはあなたが生まれてからの二十数年
楽しみにしてきた私の夢が叶う日
.
色白で小柄なあなたは さぞ可憐な花嫁姿を見せてくれるはず
あれやこれやと思い描いてきたその日だもの
あなたの嫁ぐ幸せを無条件に喜べると 疑うことなど無かった
.
「やはり白無垢で綿帽子がいいと思うの」
衣装選びをするあなたの笑顔は 幼いあの日のまま
私の膝に甘えたあの時の眼 輝いている
.
日取りも決まった 式場も決まった 招待客のリストも出来た
あなたは幸せいっぱいの未来を語り続ける
.
喜びの顔を作る母は 一つ決まる度に
あなたと繋いだ指を一本ずつ離すように 寂しい涙を抑える
あなたの存在がどんなに大きなものだったか
私は自分が押さえ込んだ涙の量に知らされる
.
あなたが素晴らしいひと(男性)と巡り会い愛し合って結婚する
その幸せを一番願っていたのに
一緒に喜びたいあなたの幸せが私の背に重い
.
あなたが嫁ぎ行く日
父は遣り切れない寂しさを噛み締めるだろう
そして----------------------私も
.
.
.
息子
【雨】
昼間の好天気を 引っくり返して大粒の夕立
窓を叩く雨に 私の刻が 過ぎた日に戻っていく
.
母であることに鍵をかけ
家を出た足は 毎日 時間と競争していた
.
突然振り出した雨が
傘の迎えも無く ずぶ濡れで 重くなったランドセルに
肩を落としながら学校から帰る 小さな息子の涙に思えて
私も 傘を差さずに歩いた日
.
いまなら 傘を届けてもやれるのに
十四歳になった息子は もうそれを望みはしない
.
私は 追憶の中で 迎えに走る
.
.
.
母
【母】
久し振りに訪ねて来てくれたというのに・・・
まだ 十日も滞在するというのに・・・
来たその日から 帰りの支度を考えている母
.
近所に預けてきた植木鉢と 言葉を話すインコが
そんなに 気にかかるのか
ゆっくり聞いてほしい話が 山ほどあるのに・・・
.
曇り一つ無く磨かれた台所に
「水周りの掃除で 女の値打ちが分かるのよ」と
小言交じりにも手を休めない 六十歳台半ばの母の後姿が
母が帰ったあとも はっきり残って映る
.
.
.
【母の心】
花曇りに吹き散る桜の花弁模様
秋月の野に乱れ咲く白菊の群れ模様
どちらも
その季節のほんの数日だけ着る 和服の絵柄
.
「どうせ 普段は洋服ばかりでしょうから」と
せめて年に一度かニ度の遊びを
嫁ぐ娘の箪笥に忍ばせた 母の心
.
あれから二十数回余の季節を繰り返し
なのに・・・
しつけの糸もまだそのまま
母が願った“心の贅沢”さえ忘れている
.
もしや・・・
絵柄の木は とうに枯れ 花々も朽ち果ててしまっているかと
そんな怖さから
今年も たとう紙は開けず そっと当てた手に母を感じている
.
.
.
【藍色撫子花の団扇】
ハタリ ハタリ
藍色撫子花の団扇が揺れる 早くお休み・・・と
ハタリ ハタリ
もう 眠ったか・・・と
ハタリ ハタリ
遠いかなたの日 私に母さんの添い寝
.
ハタリ ハタリ
藍色撫子花の団扇が揺れる 元気にお育ち・・・と
ハタリ ハタリ
おまえはいい子だ・・・と
ハタリ ハタリ
幼い日の夢うつつ 私と母さんが二人
.
ハタリ ハタリ
久し振りに クーラーを止めて
酒屋が置いていった お中元の団扇を使ってみる
.
ハタリ ハタリ
ひとり涼んで横になる 夏の夕べ
ハタリ ハタリ
ふるさとの風が揺れ 母さんの匂いが揺れ
藍色撫子花の絵柄が懐かしい
.
.
.
亡き父
【戻りの無い道】
三日も続いて 雪は地を走り 風は梢に哭いていた
街はすっかりその姿を変え
聳え立つ吹き溜まりが 造形の総てをかき消していた
.
十二月十二日
故郷は山の神の日
人々は息を潜めて地吹雪が過ぎ行くのを待つ
.
そんな日に 招かれた結婚式は昼からで
父は朝風呂で身を清め 紋服に威儀を正して
消されかけた道を探り 踏み固めつつ出かけた
.
雪は知っているか 風は見ていたか
戻り道を見失い 探しあぐねて凍えた父を
山の神に連れて行かれた その先を
.
十二月十二日
故郷の山の神は荒れる
道も戸口も 雪と氷に塗りこめて
怯える人々の 呼び合う声さえかき消してしまう
.
.
.
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《その(2)・・・心(思い、願い、愛、ほか)》
思い
【イヴ】
手のひらに乗せて見る林檎 ハートの形
濡れたような紅い艶は ときめきの鼓動さえ伝えるようだ
熟れた果実の香りは 堕散る前の危険な予感
甘酸っぱい汁の滴りが 私の唇を誘惑する
.
いまの私 とても林檎を齧れない
.
明日の私 きっとイヴには戻れない
.
.
.
【思い】
人は言う 「思いは姿、形に表れる」と
思いを 思いのままの色や形に表せたら、いい・・・
.
思いを伝えたい時 言葉の足りないもどかしさ
表情の乏しい情けなさ
私の 何を以って この思いのたけを表せるのだろう
.
人は言う 「思いは理性で抑えられる」と
思いは 思いのままで煙や風のように流れて消えれば、いい・・・
.
思いが残っている時
心に溜まる澱みの重さ
私の 何を押さえ込んで 何も聞こえない真空の淵に
この思いの影が剥がれ落ちていくのか
.
人は言う 「思いはその人それなり」と
.
.
.
【好き嫌い】
色なら原色 花なら薔薇 酒・・・バーボンか
歌ならジャズ 人・・・人はいろいろ
.
はっきりしているのが好き 中途半端は嫌い
そう言い切って 突っ張ってきたのに
でも 人・・・人は分からない
.
私だって内心では
淡い色が似合う女性に憧れ 控えめにそっと生きていたい
フリージアや雛菊も可愛いと思うし たまには日本酒もいい
しんみり演歌を聴くのも悪くはないと思う
だから 人・・・人は見えない
.
どんな時でも 幾つになっても
人の好き嫌いだけは 口に出せない
人の好き嫌いだけは 決められない
.
人 人はさまざま 人は・・・
.
.
.
【考えない葦】
あなたは誰? と聞かれれば
母です 妻です 私です とは答えられる
.
あなたは何? と問われれば
女です とは答えられても 人間です と答えられるか
.
知恵があるから人間で
考えることが生きていることだという
だからこそ「人間は考える葦である」と 先人は言った
.
考えない葦は 人間どころか葦にもなれない
一本取り残されれば
風に折られ 流され 枯れていくだけの、草
.
知恵を持たなければ 助け合うことも知らず
上手く生き延びる術も無く
しなやかに風を避けることも出来ないままに 傷み朽ちいく
.
考えることを忘れたら 人間であることを忘れたら
葦にもなれない
.
ただの草
.
.
.
【私の味】
塩焼き 煮つけ 天婦羅 フライ 唐揚げ
蒸し物 酢の物 マリネ ムニエル・・・etc
.
一つの素材も調理次第 包丁ひとつ 火加減ひとつ
使うスパイスや調味料で
同じ素材とは思えないほど 料理されて変化をみせる
.
私を料理したのは誰?
スパイスは仕事だろうか 調味料は友だちかもしれない
.
私の味は 甘いか辛いか それとも苦いか
少なくても 上出来の料理とは思えない
.
私を料理したのは いったい誰
.
.
.
【嗜好】
年ごとに薄い味付けが好きになる
シンプルな料理が望ましい
肉よりは魚 そして野菜へと嗜好が移り変わっていく
.
濃厚な味 脂気の多い料理 胃に溜まる重いものも
好んで食べていた かつての頃は
私の感情は剥き出しに顔に表れていた
喜怒哀楽のうねりが いつも胸を掻き乱していた
.
嗜好の変化は 私自身の変化か
いまは 感情をあからさまに表すことが少ない
胸の波立ちもコントロールできる
.
薄味で シンプルな料理ほど
下拵えに時間がかかり 調理に熟練が要るという
それだけに深い味わいになると
.
この頃
淡白に暮らせるようになったのは 嗜好の変化につれてか
それとも それなりの年季だろうか
.
.
.
【苛立ち】
痩せて萎びた胸肉だけれど あばらの隙間まで削いでミンチ
心臓に集まるなけなしの血を ありったけ加えて
溜め込んでいる涙で塩味をつけよう
.
握り拳を叩きつけるように 力任せに練り上げたら
細く脆くなっているだろう腸に詰めて しばらく弱火でボイル
.
出来たソーセージは
ぴかぴかに磨き上げた 真っ白な洋皿に盛って
舌がいつまでもヒリつくほどの 思い切り辛いマスタードを添えて
あなたの食卓に
.
言葉は信じられないと言うのなら
私を丸ごと食べてみればいい
.
・・・こんな腹立たしさも ときには ある
.
.
.
【空虚な心】
街は原色の夏 ゆらりと眩暈が私を揺する
身を射る熱い陽射しを避けて メトロの階段を下りると
そこは偽りの街
.
うつろな広がりが いまの私には良く似合うだろう
.
街は輝きの季節 ふわりと眩暈が私を包む
心を裂く強い陽光を逃げて メトロの片隅を歩くと
そこは空しい街
.
作られた華やかさが いまの私には相応しいだろう
.
何も無い夏を繰り返し 何も聞こえない真空の淀みに
空っぽの私だけが取り残されていく
.
.
.
.
願い
【花のこころ】
人は なぜ花を贈るのか
人は なぜ花を飾るのか
.
誰にでも 花を愛でるこころがある
.
暗く黒い土の中に 生命を育み
しっかり踏ん張って 芽を吹き 葉を広げ
見えないところで 花を支え 花を守る
・・・根
.
花は 美しく咲くことで応える
.
人は そこに真心を見る
人は そこに誠実を感じる
.
人は 花に 自分の心を託すのだ
.
.
.
【春は来る】
春はすぐそこ
重い上着は脱ぎ捨てて 出かけておいでよ
部屋に鍵をかけて 閉じ籠もっていては
萌える春草の香りも 届きはしない
.
春はすぐそこ
黒い着物はもう仕舞って 外に出ようよ
窓のカーテンを引いたままでは
明るい日差しも 頬を暖めることは出来ない
.
春が来ている
湿ったベッドから抜け出して 深呼吸をしようよ
心を塞いでいたら 体まで締め付けられ
明日を運んでくる春風も 素通りしてしまう
.
話そう 謳おう 春を迎えようよ
.
季節は必ず巡り変わるもの
どんなに冬が長くても 凍りの緩む時はきっと来る
あなただけに春が来ないなんて そんなことは無いのだから
.
春は来る
あなたの春も ほら来るわ
.
春はそこまで来てるのよ
.
.
.
【自分へのエール】
唾液にまみれた思い出の歌 手垢に汚れた懐かしい場面
擦り切れて形もぼやけた 果たせなかった夢
.
そんなものを捨てきれずに居るのは
味の無くなったガムを 何時までも吐き出せずにいるのと同じ
口寂しさを紛らわしているだけの行為
まやかしの快感に酔って 真実が見えなくなってる
.
それらは 魔法使いの呪縛だ
早く、早く気付け 呪縛の中の居心地よさは偽物だと
早く、早く逃げ出せ 魔法使いに気力を吸い取られきる前に
.
心を慰める 口馴れた歌
自分に都合よく 脚色した思い出
世間知らずの頃のまま抱えている 甘えた夢
.
そんなものから抜け出せないのは
ぬるま湯で体がふやけても 何時までも立ち上がれないのと同じ
.
魔法使いの呪縛は
先を見ることや進むことを止めさせて 生きながらの廃人を作る
.
早く、早く気付け
早く、早く逃げ出せ
.
気付いた時には 昨日までの甘い言葉は石礫に変わるだろう
.
怖れるな 泥の堆積と茂った藪が見通しを遮り
棘が行く手を阻むだろうが 這い蹲って進むのだ
.
頭を上げるな 身を起こすな
魔法使いが諦めて 手を引くまでは 静かに潜行するのだ
長い時を費やしても その道は光差す野へと続く
.
今を変える勇気さえあれば きっと闇は夜明けに通じる
.
覚悟の足を踏み出す自分へ 自分からのエール
.
.
.
【遊びに来てね】
春になったら 遊びに来てね
駅から右に 角を三つ
そこから先は 桜並木の花トンネルが、ご案内
.
花が咲く頃 遊びに来てね
駅から見える 時計台
それを目印に 降り頻る花弁の下を、歩いてね
.
暖かな日に 遊びに来てね
駅から近い公園前 石に躓かないで
その日はたんと 花の宴のご馳走作って、ロンドを踊ろう
.
.
.
【見失ったもの】
不注意に手を放して
落として割ってしまった あなたの心
.
砕けて散った心は
拾い集めて継いでみても もう元には戻らない
小さな欠片の一つか二つ きっと見失っているから
.
穴の開いたあなたの心を 両手にしっかり包みながら
見失った欠片を探し続けている
自分への問いかけのように ・・・・いま
.
.
.
愛
【羽化】
心が身体を離れて 心があなたの許に飛んでいく
からっぽの私の抜け殻
.
今朝 庭の木の幹に見つけた蝉の抜け殻
フワフワと風に揺れ カサコソと壊れそうに哀しい
.
飛び立った蝉は 羽いっぱいに陽をはじいて
木から木へ 短い命を啼いているのだろうか
.
飛び去った心よ
せめて あなたの住む街にいき 思い切り啼くがいい
.
.
.
【冬の薔薇】
冬枯れの中 裸になった薔薇の枝先に
赤い大輪の薔薇ひとつ
色暗く 花弁捩れて 数日の命燃やす
.
木枯らしの中 細い枝にしがみつき
かすかな陽射しに面伏せて
艶無く 花芯凍えて さらになお命悶える
.
冬枯れの薔薇よ
なぜ 時を外れてまで咲こうとするか
あわれな薔薇よ
なぜ 散ることをそうも惜しむのか
.
.
.
【雪魔よ、雪女よ】
なにが不満なのだ
戸を叩き 樹木を哭かせ 地を駆けて暴れ狂う雪魔よ
やっとお前が眠りに就いた暁 世界はすっかり姿を変えてしまう
お前が荒れる夜 私の心も穏やかではいられないことを
お前は知っているか
.
なにが辛いのだ
屋根を軋ませ 樹木をへし折り 道を潰して涙を降らす雪女よ
やっとお前の心が晴れる宵 世界は何一つ見えなくなっている
お前が泣き続けた朝 私の心も掻き毟られていることを
お前は知っているか
.
夜通し吹き荒れる雪魔よ
朝から悶え泣く雪女よ
お前たちが 感情を叩きつける時
泣くことも 狂うことも出来ず
じっと耐える者がいることを知っているか
.
.
.
【とぎれ言葉】
旅立ちの日 遅い春の 風のホーム
「俺・・・」
言いかけて眼を伏せた、あいつ
.
何が 言いたかったの
何を 伝えようとしたの
.
ほんの一瞬のふたりきり
みんなが それぞれの別れを持って集まり
それきり聞けなかった言葉の続き
.
二人の間に“恋”があったわけでなく
特別の約束など もちろん何も無い
.
なのに あの時のあいつの迷いが
過ぎ去った電車のあとに 線路脇で揺れていた紫大根花の
微妙な震えが 心の隅に引っかかって 時折揺れる
.
二度と会わない 二度と会えない
一つ年下のあいつの 途切れ言葉
.
.
.
【揃いのぐい飲み】
ろくろが回る 土が回る
ちょっと歪んだぐい飲みができる
あなたのと 私のと・・・ふたつ
.
飲みながら語り明かすつもりで作ったはずが
窯から出したその日には 使える当てが無くなって・・・
.
相手人の居なくなった揃いのぐい飲みは
割ってしまうには悲しくて
しまい込むのも寂しくて
.
だから いつも並べて酒を注ぐ
眩暈とともに沈む闇で 帰ってきて、と酒を飲む
.
.
.
***********************************************
《その他・・・病気、介護、仕事、ほか》
病気
【拾っているもの】
ニトロの小粒が 下で溶けて
心臓を刺していた錐が一本ずつ抜けていく
今日もまた ささやかな命を拾った
.
静まってきた眼を起こせば
不安と不審の視線が幾つか ホッとしたように急ぎ去る
帰宅電車が 唸り通る地下鉄ホーム
どの人の背にも 疲労の影が貼りつき
無言の表情は 一日の戦いのあとの空しさ
.
それでも 思いやりのカケラは
先を急ぐ足に蹴飛ばされもせず 私の足許に転がり残る
.
命を拾うたびに 一緒に拾い上げるもの
それは 人々が落としていった やさしさ・・・だろう
.
.
.
【退院のち】
もみの木が 夕べの嵐で折れた
青々と茂っていた若木のはずが
何時の間にか蝕まれていたらしい
風の強さに耐え切れず
ボキッ、と 根元から折れた
入院を控えた朝のこと
.
不吉 いやだ
.
病院に向かう足が鈍る
よりによって こんな朝に
.
もみの木が 折れたことを忘れかけたころ
退院できた
折れた後はきれいに片付けられ 埋め戻されて跡形も無い
.
縁起 こじつけ
.
何にでも神経質になっていた入院前
何でも笑い話にできる退院後
.
空が すもものように 軽く匂って
.
.
.
【気がかり】
近頃 過ぎた刻を振り返ることが多くなった
その刻に居た場所 出会った人達 起きたことがら
こでまりの花のデリケートな揺れなどまで
無性に懐かしく 手繰り寄せている
.
遣り残していたこと 言い忘れていること
途切れたままで けじめのついていない思い出が
胸の中でわだかまる 喉の奥で難渋する
.
病があればこその 気がかりと思いつつ
懐かしさからも 離れかねて 過ぎた刻に戻っていく
拭き残した足跡を 探している
.
.
.
【花粉症】
くしゃみ 涙 鼻水 痒み
春の悩みは 杉の花粉のいたずら
.
時も場所もわきまえず 連発するくしゃみ
痒みを伴って瞼を腫らす ひっきりなしの涙
湧き出るように止めどなく流れる鼻水
.
滅多に汗さえ出ない 痩せ枯れた我が身の
何処にこれほどの水分があるのか 花粉の季節の不思議
.
思考 理解 判断
みんな何処に影を潜めたか 真っ白な頭の中
.
くしゃみと同時に噴出す涙や鼻水
これは・・・もしや・・・なけなしの脳ミソが溶け出している?
・・・ふと、思う
.
屑篭にうずたかく積もり溜まるティッシュペーパーの山
私の思考も理解も判断も あの中か?
血走った眼がそこに釘付けされる
.
花いっぱいの春
美しく爽やかなはずの季節に 赤く爛れた鼻とボッテリ腫れた瞼
.
季節に不似合いか 似合いか
花粉のいたずらは 春の命萌えるいたずら
.
.
.
【ゴメンね 友よ】
「襟ぐりの大きく開いた服は もう着られないの」
あなたの瞳が ほんの一瞬 悲しい色に揺れた
.
ゴメン 友よ
勧めて広げたブラウスをかざした 迂闊な私の手が凍りつく
.
子供の頃からの仲良し
いつも 私の後を追いかけて 転んではべそをかいていた
あの時の あなたの瞳を思い出した
.
ゴメン 友よ
高校を出てからは、年に一度も会えるかどうかの歳月
たまに会うあなたは いつもにこやかで朗らかで
かつてのべそっかきの面影は 何処にもなかった
.
そんな あなたの笑顔に すっかり忘れていた
あなたが一年前に受けた大きな手術のこと
その傷が 胸に大きく 無残に残っていること
.
ゴメン 友よ
乳房を失って あなたは目に見える傷より
もっと大きく深い心の傷を その胸に抱えているのね
それなのに あなたの笑顔は美しく
そんな笑顔でいられる強さを あなたは持っているのね
.
ゴメン 友よ
べそっかきだったあなたは 私の数倍成長して
私の病をいたわり 私のグチまで聞いてくれていたから
忘れていた 私より ずっと大きな心と体の傷跡を
.
ゴメン 友よ
明日の命を見つめ 今日の命に微笑み感謝する 友よ
.
あなたの半分でも 優しくなりたい
あなたの半分でも 健気に生きたい
あなたの痛みも分かち合える デリカシーと心の広さを持ちたい
.
.
.
介護
【人間の証】(私が入院した病院の介護病棟で)
老いて認知症が進み 寝たきりになったKさん
たぶん 記憶は一欠片も残っていないのだろう
五人生んで育てた子供たちの どの顔も忘れてしまった
自分の名前も 生い立ちも覚えてはいない
いまの Kさんに残っているのは
その都度の体調で変わる喜びと怒り・・・悲しみは、無い
それから際限の無い 旺盛な食欲
そして おしめ交換の時だけ見せる羞恥心
.
体の何処にも痛みが無く、室温は快適で寝心地良く
お腹も満ちて お気に入りの介護士が傍にいる
そんな時のKさんは 静かで穏やかだ、が
どれか一つでも欠け 気に入らないと
手当たり次第に物を投げ ベッドで暴れる
.
食べ物を見ると眼を輝かせ 思うように動かない手指で鷲掴み
ガツガツと幾らでも口に突っ込もうとする
顔も 手指も 棟も 布団までドロドロに汚し
獣のような声を発して 傍に居る者の心を掻き毟る
.
そんなKさんが おしめ交換の時は
剥き出しにされる恥部を 懸命に隠そうとする
何処に残っていたかと驚くほどの力で脚を合わせ
両手で前を被って 晒されることを拒否するのだ
.
喜びや怒りは 犬や猫でも表現する
食欲は 生きるもの総てにある
しかし 羞恥心は人間だけのものではないだろうか
.
おしめが汚れる自覚さえないのに 晒される恥部を隠そうと
身を捩って抵抗するのは Kさんに残された羞恥心だろうか
.
女として 人間としての 最後の証ではないだろうか
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決して獣なんかじゃないと 最後の最後まで残るのが羞恥心ならば
人間の証とは なんと美しいものだと思う
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【老いた心の戻る世界】(私が入院した病院の介護病棟で)
Sさんの戸籍上の年齢は八十七歳
でも いま彼女は三歳の心の世界に住んでいる
大きな地主に生まれ 乳母日傘で育ったらしい
村で評判の可愛い娘で 嫁にとの引く手あまた
嫁いでは年子で男児を五人 戦時中だけに村の誇りとだったと
三十歳代に夫に先立たれ 婚家の商売を守り
舅、姑、息子たちを守ってきたが
いま 息子たちの誰ひとり 彼女を引き取る者はいない
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認知症が強くなって六年
娘ほどの介護士を 乳母だと思い込んでべったり甘えている
わがままを言っては ぐずったり拗ねたり
そんなSさんの顔は幸せそうだが・・・
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この病棟では誰もが 三歳の世界に住むSさんより知らない
息子たちの顔も 息子を産んだことさえ忘れて
乳母に甘えていた幸せな子供時代にもどって
Sさんの人生 結果は幸せなのだろう
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Kさんの戸籍上の年齢は七十九歳
でも いま彼女は三十歳代半ばの心の世界に住む
貧しい農家に生まれ 爪に火を灯す暮らしだったという
奉公続きの娘時代
嫁いだ先も貧しくて 七人うんだ末子は里子に出した
働き者の夫婦でも 暮らしは何時までも良くならない
満足に学校も出せなかったという子供たちは
みんな母親思いで 良く見舞いにも来る
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しかし 彼女の心を塞ぐのは里子に出した末の赤ん坊
何処に行ったのかと 血眼で病院中探しまわる
萎びた乳房を揉み おしめを畳む
母親思いの子供たちは為す術無く Kさんの嘆きを哀しく見つめる
赤ん坊を手放した母は 三十歳代半ばの悲しい時代にもどって
彼女の人生 結果不幸に終わるのか
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誰にも来る老後 私も認知症になるかも知れない
その時
その時 私は何歳の心の世界に住むのだろう
老いた心が住む世界 自分では選ぶことの出来ない世界だ
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仕事
【ラッシュ・タイム】
通勤電車のホームは 息つく間もない流れ作業
酸欠で喘ぐ鮒たちを押し込め 詰め込み
光と轟音を撒き散らして 十二両の箱が行き来する
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帰宅時間の線路は 溜息交じりの運搬作業
疲労に苛立つ鮒たちを揺すって 運んで
ネオンから闇へと時を刻ん 十二両の箱が移り過ぎる
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通勤電車往復は 飽くことのない振り子作業
それぞれの鮒たちの思惑など無視し 軽視して
職場と住まいを繋ぐだけに 十二両の箱が流れる
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鮒たちの命を削って 十二両の箱は突っ走る
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【私が残すものは】
老舗とか名店とか言われるところには
親子何代もで守ってきた味や形がある
名匠や名工と言われるひとには
次の世に残す技や心がある
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それを伝統と呼ぶのだろう
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私に 親が伝えたものは何だろう
私が 子らに残すことは何だろう
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受け継ぐ手応えがあり 守っていく標が明らかならば
そこにあるべき自分の姿も 自然に見えてくるだろうに
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これ、という確たるもの 胸を打つもの
重みを持つものが羨ましい
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私に伝えられたもの 私が残すもの
それが何なのか 未だに分からずにいるもどかしさ
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その他
【酔いの先には】(この詩は作曲され、著作権が発生している)
美味しいと思って飲むわけではないけれど
少しずつ 少しずつ 酔っていく心地良さにつられて
グラスをまた替える
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もうちょっと もうちょっと 酔いが深まったら
忘れかけている笑いを取り戻せるかと
自分を包んでいくけだるさに 身を預けて頬杖をつく
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あと一杯 あと一杯 今夜もそうして飲みすぎる
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楽しいと思って飲むわけではないけれど
少しずつ 少しずつ 大胆になれる面白さにつられて
グラスがまた増える
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もうちょっと もうちょっと 酔いに墜ちたら
思い切って違う世界が開けるかと
自分が見えなくなる虚ろの底で 変わることも出来ず溜息をつく
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あと一杯 あと一杯 今夜もこうして飲み過ぎる
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もうちょっと・・・
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あと一杯・・・
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最後まで読んで頂きありがとうございましたo(_ _)o。
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